漫画版『まほらば』はアニメ版『まほらば』を超えたか

先月末、暇潰しに本屋に入ったら『まほらば』の12巻が発売されてて、しかも最終巻ということで愕然とする。いや、11巻を読んだとき「次の巻で終わらなかったらちょっとダレるなぁ」とか思っていたけど、実際に終わるとなると悲しいもんだね。


さて、この『まほらば』は原作もさることながらアニメの方もかなりの面白さと人気を兼ね備えた作品であった。
個人的にはアニメと比べて漫画の方は何となく味気ない気がしていた。特に「告げる夜」なんかアニメの圧倒的というか反則的なまでの演出力とアニメオリジナルの要素を巧みに織り交ぜた内容に、いい歳して本気で泣いたからな。(泣けるという点に限定すれば最終話や黒崎親子の話よりも上だと思う。堀江由衣の演技は神懸り的。)
アニメでここまでやられちゃ原作者としては辛いもんがあるんじゃなかろうかと心配ていたのだが、それは余計なことだった。いやはや、とにかく素晴らしい。白鳥隆士蒼葉梢及び他人格の関係を描きながらも、他のキャラクターの歩む道を無駄なく手際よくじっくりと消化していく。明らかに連載初期よりも腕が上がっている。


で、問題の最終巻。もうお手上げだわ。1話1話、1ページ1ページ全てから目を離すことは許されない。
珠実に梢を託され、桃野さんに背中を押され梢ちゃんに告白し自分の道を歩んできた白鳥君。しかし、梢の多重人格の原因を知ったとき自分の歩んできた道は正しかったのか、これからもこの道を進んでいいのか悩み歩みを止めてしまう。道を進む決心が出来ない白鳥君に灰原由紀夫が一人の男として、梢の父親として頼み込む。「お前の道は間違っちゃいない。だから立ち止まらないでこのまま進んでくれ。そして梢を幸せにしてやってくれ。」と。
灰原との会話の後に自分の気持ちの整理が出来たとき、そう、まさにその時、白鳥君の目に蒼葉梢の姿が入ってくる。
これには鳥肌が立った。こーいうのって才能だよな。白鳥君と梢ちゃんの心を文字だけでなく画でここまで静かに表現できるなんて。

再び自分の道を進み始めた白鳥君だったが、その道を進むと梢ちゃんの他人格と今までのように会えなくなることになる。しかし彼は歩き続ける。そしてついに、人格は統合される。
自分の信じた道を進んだが、他人格に会えなくなったことに落ち込んでいた白鳥君。しかし彼の歩く道には大切な人がいてくれた。彼の前に現れた梢ちゃんは棗が得意だった手品を披露し「元気を出してください 白鳥さん」の一言。これだけでも感動的だが作者は追い討ちをかけるかの如く、白鳥君が梢ちゃんに泣きながら抱きつくという破壊力抜群の展開。白鳥君は悩んで自分がどうすべきかを誰かからアドバイスされたことはあっても、ここまで自分の弱さを見せたことはなかった。いつも誰かの気持ちを受け止める側だった。そんな白鳥君が初めて見せた姿。ここで俺はついに泣いてしまった。
こんなふうに白鳥君が泣く姿はアニメではなかった。アニメの白鳥君はある意味無敵だったんだよな。底知れぬ愛情と純粋さを持ってどんな困難にも立ち向かい、決して誰かに弱さを見せる人物ではなかった。それはそれで素晴らしかったけど、弱さを見せて梢ちゃんが受け止めてくれる姿も素晴らしい。


最終話は約4年後の話。
白鳥君と梢ちゃんの間には梢ちゃんの他人格の特徴を引き継いだ子どもが出来ていた。
他人格の特徴を持った子どもができるのは予測してたけど、よく考えたら梢ちゃんの他人格の性格設定自体が面白い。全人格を持った梢はきっと素晴らしい母親になるだろう。
棗は誰かが落ち込んだりしたら手品を見せて元気づけたりできるし人間関係に悩んだりしたらいい相談相手になる。
早紀は子どもの教育係。大きな壁にぶつかった時にはどう乗り越えるべきか教えてくれる。
千百合は典型的な親馬鹿。色んな服を着せたりして溺愛する一方で、子どもの恋愛相談にも付き合ってくれる。
魚子はきっと子どもと一緒に同じ目線で遊んでくれる。
これらのことには偶然気づいたんだけど、読み返してみると作者自身は明らかに意識してるから凄い。


ここまでやってくれると「アニメより面白かった」と言う他ないね。ストーリー構成の巧さの格が違う。連載初期の頃は演出力の問題でちょっと物足りないところもあったし、棗と仲良くなる話なんかもちょっと強引だと思ってたけど、後半には演出力もアニメに負けないほどしっかりしてるし、それぞれの人物の物語の消化の手際も見事。


どうでもいいけど、作者の小島あきらって男なの?女なの?作風でここまで男女どちらかわからないのも珍しいと思うんだが。